繊維を足した人の体で、先に動いたのは「おなか」ではなかった
外来で食事の話をしていたときに、「便秘じゃないので、繊維は足りてます」と言われたことがあります。
そうなんですよね、たいていの人がそう思っている。繊維は便通の道具として覚えられていて、
出ないから足す、出ているなら要らない——学校でも、だいたいそう習います。
ところが繊維を足した人を何週間か追いかけた試験では、先に動いたのは、
おなかではありませんでした。今日はその話をします。繊維がもう一つ持っている仕事を知ると、
食卓の見え方が少し変わります。

先に動いたのは、血糖と炎症のほうでした
繊維を一定量、毎日足してもらう。その状態で数週間過ごしてもらって、
前後で体の中を測る——そういう試験があります。
そこで動いたのは、血糖のほうと、炎症のほうでした。しかもインスリンの効きかたまで、
一緒に動いていた。
便通の道具として覚えていた材料が、まず血糖の側で仕事をしていた。
ここが、繊維のいちばん知られていない顔です。
気がついたら血糖の話になっている。
なぜ、おなかの材料が血糖まで届くのか
繊維は人間の消化酵素ではほどけません。だから小腸で吸収されずに、そのまま大腸まで届きます。そこで待っているのが腸内細菌で、菌はこれを食べて短い脂肪酸(短鎖脂肪酸)に作り変えます。
この短鎖脂肪酸が、腸の壁の内側をきちんと閉じておくのに使われます。壁が閉じていると、菌の外側の成分(内毒素)が血のほうへ漏れにくくなる。血中に漏れる量が減ると、体はそれを「危ないもの」として騒ぐ必要がなくなります。騒ぎが小さくなったぶん、インスリンの効きが戻ってくる——おなかと血糖は、この一本の線でつながっています。
「繊維で菌の種類が増える」は、実際には起きませんでした
ここに、もう一つ面白い話があります。
「繊維をたくさん食べれば、腸の菌の種類が増える」——よく言われますよね。
これを実際に人でやってみた試験があります。
増えませんでした。菌の顔ぶれは、ほとんど変わらなかったのです。
では何をやったら増えたのか。発酵食品のほうでした。味噌、
納豆、ぬか漬け、ヨーグルト。そちらを増やした人たちは、
菌の種類が増えて、炎症の目印も下がっていきました。
繊維は「餌を配る係」、発酵食品は「顔ぶれを連れてくる係」
繊維がやっているのは、いま住んでいる菌に餌を配ることです。だから菌の働きは変わっても、住人の顔ぶれ自体は入れ替わりません。実際この試験でも、繊維を増やした群では菌が糖を分解するための道具(酵素)が増えていた——つまり住人の仕事量は増えていました。
発酵食品がやっているのは、外から新しい顔ぶれを連れてくることです。仕事の種類が違うので、片方だけだと、もう片方の仕事が空いたままになります。
だから、順番は「発酵食品がひと品」から
繊維の話をしていて発酵食品にたどり着くのは、遠回りに見えるかもしれません。
でも、いま食卓に足りていないのはたいてい顔ぶれのほうで、
餌のほうはすでに間に合っていることが多いのです。
そして発酵食品のひと品は、新しく買い足さなくても始められます。
冷蔵庫にすでにあるものを「今日は出す」と決めるだけで足ります。
繊維のほうは、そのひと品が一週間続いてから考えても遅くありません。
今日からできることは、ひとつだけ
- いつもの食卓に、発酵しているものをひと品だけ足す:味噌汁でいいです。納豆でも、ぬか漬けでも、ヨーグルトでも
- 買い足さない:すでに冷蔵庫にあるものを「今日は出す」と決めるだけで足ります
- 繊維を増やすかどうかは、そのひと品が一週間続いてから考えても遅くありません
「じゃあサプリで繊維を飲めばいいですか」と聞かれることがあります。飲んでいる方を止めはしません。ただ、さきほどの試験で使われていたのは粉にした一種類の繊維で、食卓の野菜とは別ものです。粉が悪いのではなく、粉ひとつで食卓のかわりになるという話ではない、というだけのことです。
あと、繊維を急に増やすと数日は張ります。そこで「合わなかった」とやめてしまう人が多いのですが、たいていは菌のほうがまだ慣れていないだけです。ただし、体重が急に落ちてきた・便に血が混じる・夜中に目が覚めるほど痛む——このあたりは食事の話とは別のことなので、そのときは早めに医療機関で診てもらってください。
繊維の本当の仕事——要点まとめ
- 繊維は便通の道具として覚えられているが、試験で先に動いたのは血糖と炎症のほうだった
- 繊維は大腸まで届き、菌が短鎖脂肪酸に変える。それが腸の壁を閉じ、内毒素の漏れを減らす
- 「繊維で菌の種類が増える」は、実際の試験では起きなかった
- 種類を増やしたのは発酵食品のほう。繊維は餌を配る係、発酵食品は顔ぶれを連れてくる係
- 今日は、冷蔵庫にある発酵食品をひと品出すだけでいい。繊維の増量はそのあとで