抗生剤のあと、腸は自分で戻ろうとしている——整腸剤が、待たせていたという報告
薬局のレジで、抗生剤を受け取ったあと、その足で乳酸菌サプリや整腸剤をカゴに足す人をよく見かけます。
律儀だなあ、と思います。自分の体をちゃんと気にかけている証拠なので、
まず素直に偉い。ただ、その一手が本当に回復を早めているのかというと、
話はもう少し面白いところにあります。腸は、放っておいても自分で戻ろうとしている——その前提から見ていくと、
順番の見え方が変わります。

腸には、自分で元に戻ろうとする力があります
腸の中には、ふだん数百種類の細菌がひしめき合って、バランスを取りながら暮らしています。
これを腸内細菌叢と呼びます。
抗生剤は、いい菌も悪い菌も区別せず、かなりの範囲をなぎ倒します。
刈り取られた草原のような状態です。
ただ、放っておいても、体は数日から数週間かけて、元の顔ぶれに近い状態へじわじわ戻ろうとします。
これは黙って起きている回復です。ここに整腸剤を足せば、
その回復が早まって安心——というのが、たぶん多くの人の感覚だと思います。
ところが、戻るのが遅れていました
これを人の腸で実際に確かめた研究があります。抗生剤を飲み終えたあと、
何もせず自然に任せたグループと、市販されているタイプの整腸剤(乳酸菌サプリ)を飲んだグループを比べたものです。
整腸剤を飲んだほうが、自前の腸内細菌が元の状態に戻るのがはっきり遅れて、
数週間たっても完全には戻りきりませんでした。
ちなみに、自分自身の腸の菌をあらかじめ預けておいて戻す特殊な方法を試したグループだけは、
数日でほぼ元通りになっていました。
戻るのに時間がかかっていた。
外から来た菌と、もともと住んでいた菌
サプリで入ってくる菌は、その人の腸にもともと住んでいた顔ぶれとは別ものです。草原がまだ薄いところに外から新しい草を撒くと、いっとき地面は埋まりますが、もともとそこにいた草が戻ってくる場所を先に取ってしまうことがある——研究者が見ていたのは、その種類の話です。実験室では、乳酸菌が出す溶けだす成分が、もとの菌の戻りを抑える側に働くことも確かめられています。
ただし、これで結論が出たわけではありません
正直に言うと、この結果がすべての研究で同じように出ているわけではありません。
似たテーマを集めたレビューでは、整腸剤が効いた研究、逆にバランスを乱した研究、
変化がなかった研究がバラバラに混在していて、まだ「これが正解」と言い切れる段階ではないのです。
言えるのは、「抗生剤のあとは反射的に整腸剤」が、誰にでも当てはまる正解というわけではなさそうだ、
というところまでです。
結果が割れている、という事実そのものが情報
7つの研究を集めて整理したレビューでは、多様性の変化を打ち消した研究が1つ、かえって悪化させた研究が1つ、影響がなかった研究が4つ。菌の顔ぶれへの効果も、乱れを和らげたもの・一部だけ動かしたもの・変化なし・回復が遅れたものと、方向がそろっていません。
ここから読み取れるのは、どの製品を、誰に、どのタイミングで使うかで結果が変わる段階にあるということです。「効かない」と読むには早すぎる。ただ、毎日なんとなく足し続ける理由にもならない。
土台になるのは、食べ物のほうです
ふだんから腸を整えたいなら、土台になるのは食べ物のほうだと思います。
発酵食品(ヨーグルト、味噌、キムチ、ぬか漬けなど)をいろんな種類で摂り続けた人たちを17週間追いかけた研究では、
腸内細菌の多様性が少しずつ増えて、体の中の炎症を示す数値も下がっていました。
食物繊維も、種類によって育つ菌が変わることが分かっています。
いつも同じ野菜・同じ繊維ばかりだと、育つ菌の顔ぶれも偏りがちです。
今日からできることは、ひとつだけ
- いつもの発酵食品・野菜のレパートリーに、まだ試していない一品を足す:ヨーグルト派の方なら味噌汁や漬物を、という感じで。増やすのは量よりも種類のほうです
- 抗生剤を飲んでいる最中、または飲み終えたばかりの方は:整腸剤を自己判断で足す・やめるより先に、処方してくれた医師や薬剤師に「このタイミングで飲んでいいか」を一言聞いてみるほうが安全です
整腸剤そのものを否定しているわけではありません。目的があって使う分には意味がある場面もありますし、今回の話は「毎日なんとなく」の部分に限った話です。
それから、処方された抗生剤は、途中でやめないでください。指示された日数を飲みきることのほうが、菌の話よりずっと優先されます。抗生剤のあとに下痢が続く・便に血が混じる・熱が下がらない——このあたりは自分で調整する話ではないので、処方したところへ早めに連絡してください。
抗生剤と整腸剤——要点まとめ
- 抗生剤のあと、腸には放っておいても元に戻ろうとする力がある
- 市販タイプの整腸剤を足した群では、その戻りがかえって遅れたという報告がある
- ただし研究間で結果は割れていて、まだ結論の出ていない段階
- 「毎日なんとなく」足し続ける理由にはならない、というところまでが言えること
- 土台は食べ物。発酵食品と野菜の種類を一品増やすところから
- 抗生剤の服用中・直後は、自己判断より先に医師・薬剤師に一言確認を